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幽玄微妙な夢幻さ?
聳え立つ山の頂上も直線距離で素早く移動するのなら数分で到着する。その先に〝癒し〟との顔合わせがあるとしても、この数分がアスカには最高だった。風と戯れ、足元に広がる色彩豊かな季節を楽しむ。何と言っても、男が胃に優しい行動を取ってくれたのが嬉しい。愛はないが思い遣りはある。〝癒し〟とのタイマン勝負にも優位に働くはずだ。そう思ってにやついたのも束の間、男が足を止めたことで目的地に着いたのを知る。
さてさて、変態屋敷に劣らないだろう別邸はどういったものなのか―――。巨樹の天辺からそれを見下ろす男にならって、アスカもおもむろに視線を向けた。
「うん?」
最初はわからなかった。気付いて目にしたものは予想外だった。繁茂する枝葉の隙間から差し込む光にひっそりと、幽玄微妙な夢幻さに煌めくそれは、どう眺めても棺にしか見えない。
「マジか」
現代の強化ガラスで作られていようが、古風な棺が男の〝癒し〟であるのは間違いない。
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