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はっと息を呑んだ?
遠目でもわかっていたのだ。抗ってみせても無駄なことは理解している。〝癒し〟とのタイマン勝負はご破算になり、頂くつもりの目くるめく愛欲の炎も泡と消えた。元々が愛欲の炎を知らずに生きて行く予定でいたのだから、悔しがるだけ哀れではある。男の魂の解放も慈善でやるしかない。そう思いながら、アスカは惨めさを押し隠すかのようにマントのフードを頭に被せた。
そうしたアスカのすらりとした姿を、鬱蒼とした森に差し込む微かな光が艶やかに照らし出す。棺の傍らで歩みを止めた男と同じに、そっと静かに隣に立てたのも、追うようにして差して来た光の慰めに気付けたからだ。光は逃れられない現実を知らしめてしまうものだ。棺に横たわる人の姿も、鮮明に映し出す。
多彩な色糸で織り出された雅やかな打掛に包まれる姿は美しかった。魂の記憶が見せたものよりも、儚くも幻想的な美しさを持っていた。アスカがはっと息を呑んだのは、致し方ない現実だった。
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