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新たな君主に?

 アスカは男がさり気なく口にしたことを思い出していた。独り静かに笑うように話していた中での台詞だ。 〝御台の死を隠し、人知れず荼毘にふした……〟  人間であればいつかは必ず死を迎える。それが宿命というものだ。男の台詞をさらりと聞き流せたのも、そうした思いからだった。 「御台をあやめたは、謀叛を企てし家臣、死したこの身を求め、探しあぐねての狂気がなしたこと」  男がヴァンパイアに変異までして願ったのは、生であって死ではない。つまり死が期せずして起こったのだと、アスカにもわかって来る。  それはアスカの耳に悲しく響いた。家臣は賢くあったが焦りに負けたと、男は言った。その手に男の首をかかげない限りは、家臣の行為に大義はなく、不忠不義とそしられる。当然のことに男の死体はない。しかも逆臣を討つと名乗りを上げた者達に追われ始めた。討ち取った者が新たな君主になれるのだ。皮肉にも、家臣が夢見たことが別の者には好機となった。

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