538 / 814
俺に聞くんじゃねぇ?
「御台は愚かではない」
男は続けた。
「騙されるを承知で向かったはず」
死を語るのはつらいものだが、気持ちを見せまいというのか、男の沈んだ調子の口調にはややもすれば力強さが漂う。
「だが、理由がわからぬ、心に秘めたこと故に、精霊どもも知らぬと申す」
精霊達には人間がひた隠す心のうちを記憶することは出来ない。ろくでもない噂に騒ぐのとは違う。彼らが語る噂に嘘がないように、実際に起きた出来事と言葉にされた事実のみが記憶される。だからこその霊媒とも言えるが、霊媒にしても難しいところではある。心のうちの真実を見極めるのは困難な作業だ。人間であった頃の思いにしがみ付く霊ともなれば、平気で嘘を吐く。しかし、胸の奥深くに女の魂を宿すアスカは別だ。魂が聞かせようとするのなら、否応なしにわかってしまうことなのだ。
「てか……」
アスカは男に頼ませないよう先んじて言った。
「俺に聞くんじゃねぇぞ、霊媒っても、落ちこぼれだしよ」
ともだちにシェアしよう!