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俺に聞くんじゃねぇ?

「御台は愚かではない」  男は続けた。 「騙されるを承知で向かったはず」  死を語るのはつらいものだが、気持ちを見せまいというのか、男の沈んだ調子の口調にはややもすれば力強さが漂う。 「だが、理由がわからぬ、心に秘めたこと故に、精霊どもも知らぬと申す」  精霊達には人間がひた隠す心のうちを記憶することは出来ない。ろくでもない噂に騒ぐのとは違う。彼らが語る噂に嘘がないように、実際に起きた出来事と言葉にされた事実のみが記憶される。だからこその霊媒とも言えるが、霊媒にしても難しいところではある。心のうちの真実を見極めるのは困難な作業だ。人間であった頃の思いにしがみ付く霊ともなれば、平気で嘘を吐く。しかし、胸の奥深くに女の魂を宿すアスカは別だ。魂が聞かせようとするのなら、否応なしにわかってしまうことなのだ。 「てか……」  アスカは男に頼ませないよう先んじて言った。 「俺に聞くんじゃねぇぞ、霊媒っても、落ちこぼれだしよ」

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