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私は望んだ?

「御台が戻る……」  アスカが何も言わないのを、男は少なからず気にしたようだ。軽く首を横に振り、言葉を換えて、こう優しげに言い直していた。 「……君が現れるを」  口調の優しさがハンサムな顔に生き生きとした華やかさを描き出し、無表情に生きるヴァンパイアとは思えない人間的な快活さを見せ付ける。そのあでやかな雰囲気のままに、男は視線を棺に戻して、独り言のように話を続ける。 「偽りない激しさなど、狭量なもの、囚われもしよう」  男の行為は気遣いだ。アスカはそれで良しとすることにした。というより、アソコをビンビンに刺激する声音もだが、抑え込まれていない感情の豊かさが映える麗しさは格別で、他に何もいらないというのが正しかった。 「御台の死が私に思い知らせたのよ、変異の浅はかなるをな」  組んでいた腕を自然と解かせた程の美しい横顔に呆けるアスカの耳に、男の活気に満ちた声音が明るく響く。 「故に、この身の終わりを、私は望んだ」

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