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アレ、あんたの?
何を思って言われたのかは、咄嗟にはわからなかった。男が棺へと身を屈め、すっと伸ばした両腕にふわりとまぼろしを抱きかかえ上げた時に、アスカにも見えたような気がする。
「クソっ」
妬ましさを示すのに、他に言葉が思い付かなかった。片腕で子供のようにかかえられていたのとは大違いだ。可憐な美を腕にいだく雄々しさは壮観で、比較するのも哀れな程に、雅やかな勇ましさに圧倒される。見たくないと後ずさっても顔が上向き、男がすることから逃れられない。
「さらばだ」
男は優しくその言葉を口にして、まぼろしを空へと高く放った。空中に名残惜しげにとどまるまぼろしの幻想的な美しさも、木々の隙間から差し込む仄明るい日差しを受けて、色とりどりに煌めく光の粒へと姿を変えた瞬間、弾けて消えた。
「いいのか?」
別れを思わせても、男の愛に終わりは来ないのだ。聞くだけ惨めだが、それでもアスカは言わずにはいられないでいた。
「アレ、あんたの……」
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