548 / 814

アレ、あんたの?

 何を思って言われたのかは、咄嗟にはわからなかった。男が棺へと身を屈め、すっと伸ばした両腕にふわりとまぼろしを抱きかかえ上げた時に、アスカにも見えたような気がする。 「クソっ」  妬ましさを示すのに、他に言葉が思い付かなかった。片腕で子供のようにかかえられていたのとは大違いだ。可憐な美を腕にいだく雄々しさは壮観で、比較するのも哀れな程に、雅やかな勇ましさに圧倒される。見たくないと後ずさっても顔が上向き、男がすることから逃れられない。 「さらばだ」  男は優しくその言葉を口にして、まぼろしを空へと高く放った。空中に名残惜しげにとどまるまぼろしの幻想的な美しさも、木々の隙間から差し込む仄明るい日差しを受けて、色とりどりに煌めく光の粒へと姿を変えた瞬間、弾けて消えた。 「いいのか?」  別れを思わせても、男の愛に終わりは来ないのだ。聞くだけ惨めだが、それでもアスカは言わずにはいられないでいた。 「アレ、あんたの……」

ともだちにシェアしよう!