「構わぬ」 　ところが男にまさかの勢いでそう返された。最後まで言わせまいとする調子に、アスカの口もあんぐりだ。アスカは男に邪魔をされなければ、〝女〟と続けるつもりでいた。囚われる愛についても吐かせていただろう。それを男にふいにされた。 　まぼろしであっても、男の〝癒し〟だったのは確かなことだ。男は精霊達の戯れと言いつつも、金のかかった棺を用意し、戒めとするにも豪奢で、人間には立ち入り不可能な山頂に隠し置くという仰々しさで守っていた。それ程のものをあっさりと手放したのが、かえってアスカには胡散臭く映ってならない。 　アスカはふんと横向いた。喋るなというのなら黙ってやると、そうした気分にフードも揺れる。そこに男が指を添わすとは思わなかった。 「……っ！」 　驚きが言葉になる前に、フードが払い落とされた。男がただアスカの顔を見る為にしたのは、銀白色を帯びた錫色の瞳に人間らしい色合いを浮かべたことですぐにわかった。