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黒みを増して?
人間種社会にはヴァンパイアへの恐怖が根強く残る。それもあって、口さがない者達は彼らの奇異な瞳を腐った魚の目と侮蔑する。アスカにしても恐怖はないが、男に見詰められるこの状況では、同様の不躾さに救いを求めたい気分になっていた。
男はフードを払ってアスカの顔を露にしたが、アスカを思ってのことではない。魂に潜む女を呼び出すには、アスカの目を通す必要がある。フードに隠されていては、いちゃつこうにもいちゃつけないということだ。
「君がいる」
官能的な響きで続けた男の身勝手な台詞が、まさにアスカの考えの正しさを裏付けた。変態屋敷を建てるような腐れオヤジでもあるのだ。〝癒し〟のまぼろしから女の魂を宿すアスカに乗り換えるのもへっちゃらだろう。銀白色を帯びた錫色の瞳に浮かべた人間らしい色合いも、女への欲望に他ならない。そうアスカに確信させたのは、錫色の瞳が黒みを増して、煽情的な揺らめきに熱く艶めいていたからだった。
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