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善人じゃね?
「ホント、可愛くねぇな」
アスカは苦々しげに呟き、飼い主に似てと、そこは心のうちで続けていた。
「っうか……」
ヤヘヱの主人である男を思ったことで、苦々しさがさらに増す。張り切って出掛けたというのに、男のせいで何一つ思い通りに行かないままに帰宅したのだ。苛立ちもする。〝癒し〟にしても、変異の愛を象徴する女のまぼろしというふざけた代物だ。タイマン勝負とイキっていただけに、男が身内の秘密を少しばかり語って華々しく手放してみせても、愛に終わりが来ないのを見せ付けられたとしか映らない。
「ってのに……」
目くるめく愛欲の炎を頂くはずも、泡と消えた。それでも男の魂を解放させる。アスカとアソコのたがえる意識のそれぞれの思惑と欲情があって、男を闇に落とさずにいたという事実の上に、慈善でもって叶えてやろうというのだ。
「俺ってさ」
それで女に未練たらたらの男とも決別出来る。そう信じての思いだった。
「マジ、善人じゃね?」
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