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安易に捉えて?
男は人間として生きた過去を持つヴァンパイアだ。変異を可能にした感情の激しさが愛であっても、モンスターというのを忘れてはならない。しかも人間であった頃の殿様気質を残しての変異だ。代償としてヌシに感情をむさぼられるとしても、誇り高く居丈高に振る舞う。ヴァンパイアが無表情でいるのは、沸き起こる激しさを少しでも気取られまいとしてのことだが、男が作り上げた無表情は、殿様気質のなせる技なのか、見事なまでに完璧と言えるものだった。
「野郎はさ」
アスカには多少なりとも感情を見せているが、魂に女を宿すのでは、仕方ないことに思えている。瞬間移動一つ取ってもわかるように、アスカ自身に対しては強引で冷たい。
「クソってこった」
そう続けて、顔を顰めた。男との付き合いを安易に捉えていたようだ。慈善をするにも、一歩引いたくらいが妥当という気がして来る。その思いに頷きながら、アスカはのんびりと建物に沿って玄関へと歩いていた。
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