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ごまんといる?
「へぇ」
アスカはにやついた。どうやらアルバイト風山男は無理矢理に来させられたようだ。モフモフしてわかりづらいが、顔色を暗く不満げに沈ませている。籐編みの手さげかごをアスカに渡したあとも、別れの挨拶一つないままに素早く背を向け、まさに捕食者から逃げる野兎のように、道路に向かって石畳を走り抜けて行く。その瞬く間に小さくなる後ろ姿を見送りながら、アスカはにやつきを大きくし、弾む声音で呟いていた。
「可愛いじゃねぇの」
無言というのは同じでも、迫り来るムチ姫のしもべに比べれば、嫌っているかのように走り去る山男の方が何倍も爽やかに映る。それで思った。男が相手の愛欲の炎は諦めるしかなくなったが、男に執着し、自己の愛欲まで腐らせる必要はどこにもない。モンスター居住区限定であっても、世間には炎を燃え立たせる相手はごまんといる。
「ふふん」
アスカは楽しげに鼻を鳴らして、浮かれ調子に言葉を繋げた。
「いいんじゃね?」
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