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丸まっている?

「ったく」  聖霊達は闇の領域を従える奇怪な山での出来事を夢中になって喋っていた。あの場に人間がいたはずはなく、彼らが騒ぐ内容も直接見聞きしたことではない。情報元は明らかで、アスカが触れた光に闇に風に空気にと、自然界の精霊から漏れ聞いた話に違いなかった。その事実に狂乱し、さらに次なる展開を妄想し、アレがコレしてコレがアレしてと、可愛らしくも毒々しい内容へと広がりを見せる。そこは彼らのお楽しみで、当然のことに男が主役に話は進む。 「ああ、クソっ」  悔しがっても始まらない。逆に構ってくれたと嬉しがらせるだけだろう。アスカは逃げるようにキッチンへと向かい、テーブルに山男からもらった籐編みの手さげかごを置き、立ち止まらずに自室に入り、マントを脱いでベッドに放った。この時になってヤヘヱのことを思い出したが、酔いどれジジイのヤヘヱは爆睡中らしく静かなものだ。鈍い煌めきがマントの肩先で心地良さげに丸まっている。

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