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男がいたから?

 アスカの一日も精霊達の喋りで始まる。彼らは疲れ知らずで、毎日、終始一貫して朗らかに活動する。特に朝は目覚まし代わりにもなる程のやや高音のキンキン声で喋り合う。死者の声に怯えていた子供の頃と違って、大人になった今は苛立つばかりだが、寝坊助なアスカには役立つ騒ぎではあった。  今朝も彼らは張り切って騒いでいる。昨夜の狂乱ぶりを思えば当然だが、それだけではない何かを感じさせもする。一昨日の夜から昨日の朝に掛けての異様な静寂は、アスカの許しを得ようという姑息な甘ったれがさせたことで、そこには今朝の騒ぎに感じるような曖昧模糊とした不安はなかった。 「うーん」  ダイニングルームにたむろしているとしか思えない騒ぎにも、不安が増す。こうなると直接見て確かめる他ない。アスカは眠気を払うように勢い込んで起き上がり、せかせかと早足で歩いて部屋を出た。 「あ……っ」  言葉が続かないのは、ダイニングルームに男がいたからだった。

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