「だろ？」 　アソコが落ち着けば、アスカも落ち着く。男に聞かせないよう声音を落とすといった余裕も生まれる。 「てか、あんた……」 　何しに来たと思いつつ、アスカは男を眺め直した。男は今朝もスーツ姿だ。茶色系の洒落た色合いのスリーピースに薄水色のシャツ、深みのある濃紺のネクタイ、ポケットチーフも青色系という装いが、白蝋気味の肌と銀白色を帯びた錫色の瞳に映えていた。これが美貌を武器に戦える殿様的示威なのかと、そう思うアスカをからかうかのように微笑み、ソファに座って寛いでいる。 　ソファの前にはテレビチューナー付きの大型モニターが設置してあるが、男がわざわざテレビの為に来る訳もなく、画面には何も映されていない。それにリビングと一体型に作り直したダイニングルームは母親好みに整えられて、愛らしいぬくもりに溢れている。殿様気質のヴァンパイアと合うはずもないのだが―――。 「クソっ」 　男はそこに違和感なく溶け込んでいた。