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覚えがない?

「うーん」  唸ってみても答えは出ない。まさかという思いの方がやや勝るとはいえ、アルファの〝しもべ〟疑惑も捨て難い。こうなると男をけしかけ、匂わせの意味を語らせるしかない。それでアスカはわざとらしくむすっとし、苛立つ口調で男に話し掛けた。 「っうけどよ」  鎌を掛けようかとも思ったが、即座に考えを変えた。一刻も早く追い出したいのだ。悠長に誘導していては、長々と居座らせることになる。それにずばりと切り出したのなら、エントランスホールで暴れた男と、殴り倒すのを我慢したアスカとの違いも見えて来るはずだ。そう思いながら、口早に続けた。 「俺が何したっての?」 「人狼に……」  勿体付ける男を急がせようと、アスカも繰り返す。 「人狼に?」 「ああ、優しくしたな」  瞬間、アスカの目が驚きに瞬いた。こう返されるとは思わなかった。人狼に優しくした覚えがないのだから、言い返そうにも言葉が出て来ない。男にはそれで良かったようだった。

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