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冷静に考える?
「人狼の情愛は……」
男は微笑みをより華やかにして、アスカの反応を楽しむように甘い声音を明るく弾ませ、話を続ける。
「人間のみに向かう、それ故に、見初めた女をかどわかし、子をなす、だが、悲しいかな、人間の命は儚い、長くは寄り添えぬ、とは申せ、つがいた女が死するまでは一途に慈しむ、幻惑によるまやかしなのだが、女にはわからぬことよ、その後ろめたさなるか、忠義に篤い犬が如くに、女が死するまで、生家が厄災にあわぬよう律儀に見守る」
男の話はアスカにも薄々わかっていたことだ。その正しさをヴァンパイアの観点でひややかに聞かされたといったところだが、それがアスカとどう関係するのかは見えて来ない。
男は人狼に優しくしたとアスカに言った。冷静に考えるのなら、アスカにはリンを殴り倒さずに我慢したことくらいしか思い付かないが、そうなるとエントランスホールで男がアルファを相手に暴れたのも、そこに起因してしまうことになる。
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