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人間じゃねぇ?
「けど……」
アスカがリンを殴り倒さなかったのには理由があった。人間と人狼では肉体的に差が有り過ぎて、勝負にならない。それを聖霊が差し出がましくも、時間と空間の歪みといったもので調整してくれたのだが、与えられた条件がアスカにはズルとしか映らず、手を出せなかったからだ。
リンの的外れな嫉妬が始まりではあるが、男の〝癒し〟が女のまぼろしと知らないうちは、アスカもリンの行動を〝癒し〟の嫉妬と決め付けた。その間違いもあの場で解決している。つまり男とリンに繋がりはない。アスカとの揉め事も誤解がもとで成立したことだ。男とアルファに何かしらの因縁があるのは事実でも、そこにアスカが関係するはずがない。
「リンが追い掛けてんのはフジだぞ」
男が得々として語った人狼の情愛も時代遅れな話だ。時代の変化は種族の壁をないものにしたと、アルファも言っていた。それをアスカは男にぶつけた。
「フジは人間じゃねぇ、ヴァンパイアだろ」
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