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間抜けっぷりに?

「ふむ」  男は微笑みを絶やさず、アスカの反論にも同意するかのように頷き、あっさりと答えた。 「時代が変化したのちの世しか知らぬ者に、人目を忍んで生きる苦難な日々が、わかりようもなし、となれば、悠久の歴史に沿うた種の違いなど、旧弊と見なしもしようものぞ」  にこやかに飄々と続ける男に、アスカはさすがにむかついた。男はアスカが知りたいことを理解した上で、人狼についてくどくどと話している。これではアスカも腹が立つ。 「んな話……」  かっかしながら言葉を繋いだ。 「どうでもい……っ」  そこではっとし、言おうとした台詞が頭から消えた。組んでいた腕も無意識に解け、口慣れた悪態がそれに代わる。 「クソったれがっ」  男の変異は愛によるもので、その愛に終わりは来ない。時代の変化に惑わされず、いつ如何なる場合にも変異を可能にした愛を拠り所に動く。そうした男の定めを、すぐに思い出せないでいた自分の間抜けっぷりに、アスカは苛立った。

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