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太腿を揃えて?

「ふっ」  男には鼻先で軽く笑われた。アスカに苛立ちや悔しさを隠す気がないのでは、男の気障ったらしい笑いも、自然発生的な嫌みと受け入れるしかない。むしろ素直に認めたことで、アスカがアスカでいられたとも言える。要は積もりに積もった鬱憤を晴らす勢いで、男に向かって拳を振るったということだ。  こうした時に相手が何者であるのかは考えない。考えないでいるのが肝要だ。次の瞬間、ソファに端然と座る男に担がれていようが、自分を信じての行動には誇りが持てる。殴り倒されていたのなら、より誇らしかったが、そこはままならない人生の修練と諦めた。  それにこうなったのは両親が気に入って持ち込んだソファのせいでもある。テレビの位置に合わせて、周囲に洒落た感じに空間を作ったのが悪かった。不細工でも壁に寄せておけば、男の肩に乗せられることはなかった。ソファの向こうに半身を出した形で、太腿を揃えて尻を押さえ込まれたりしなかったのだ。

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