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掠れ声が響いて?

「クソっ」  アスカは怒りに任せてソファの裏側を拳で叩き、ついでに逞しくも上品な男の背中を殴り付け、男が怯んだのを見て、さっ体を離して意気揚々とその場に立った。実際には暴れまくった挙げ句にずり落ちていたのだが、気分的には男を怖がらせた末に悠然と立ち上がったと思っている。その上で、無言のままに玄関を指差した。男が困惑するとは驚きだが、アスカに女を重ねていたのなら、もっともなことには思えていた。  女は見るからに可憐で淑やかだった。強くありたい硬派なアスカとは大違いだ。男が戸惑うのも当然だろう。だからといって許した訳でもない。玄関を指差すアスカの手が下ろされることはないのだ。 「君は……」  男は咄嗟に口をつぐんだが、思いは隠せていなかった。銀白色を帯びた錫色の瞳に女を映し、求めている。そう理解した時、アスカの意識に少年らしい掠れ声が響いて来た。 〝そなたの……〟  そして一瞬の間に広がる過去に、時間が止まった。

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