〝そなたの……〟 　その声音が少年らしく掠れていても、男の声であることはアスカにはわかっていた。変態屋敷の駐車場で男に抱きかかえられ、夢に浸って聞いた声を忘れはしない。 〝そなたの小さき指が示すものに……〟 　やはり男の困惑には女が絡んでいた。男は女と同じ行動に出たアスカに戸惑ったのだ。アスカにその気はなかったが、男にはそう見えたということなのだ。 〝……ものに従えと？〟 　はっきりしたところで嬉しくはなかった。まぼろしを手放そうが、愛に終わりは来ない。アスカに女を求める限り、女への愛も続く。 「けど……」 　釈然としない思いがアスカを悩ます。女は人質として歴然とした力関係のもとに輿入れをした。それで出て行けと言葉にせずに言われては、男でなくとも戸惑うものだ。アスカに対しては大人の落ち着きで自制したようでも、血気盛んな年頃にそうした抑えが出来るはずはない。事実、少年の声音には駐車場の時にはなかった嘲りがあった。