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予想したこと?

 立場の弱さは行動を鈍らせる。強気に出ようが、無駄な足掻きでしかない。それより奥ゆかしげによよと泣き伏し、哀れな姫君でいた方が幾らも生きやすい。少年の嘲りにはそういった意味合いもあるのだろうが、女は淑やかな見てくれの割りに意固地なようで、逆に奮起させてしまうことになる。言い返す細く柔らかな声音には、男が少年のそれであったように幼女のあどけなさを残していたが、大人びた苛立ちも感じさせる。 〝わたくしの寝所にござりまする〟 〝故に出て行かぬ〟  アスカの目には暗闇に映る寝所に、ごろりと寝転がる音がして、そこに小走りに急ぐ足音が被さった。 「おっ?」  すぐに少年をどかそうとする少女の踏ん張り声もして、アスカは呆れて思っていた。戦国の世に生まれた若君の戦闘能力は高く、深窓の姫君に勝ち目はない。案の定、寝床に引き倒される衣擦れの音を聞く。同時に二人のはっとする息遣いに静寂が入り込む。それも予想したことではあった。

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