587 / 814

日々慰めてくれた?

〝あのものは……〟  少女の声音に寂しさが戻る。 〝大人になるまで待つよう言いました〟  しかも子供のうちが無理なように、大人であっても人妻を迎えるのは許されていないのだと、もどかしげに話していたという―――。 〝それ故に……〟  名ばかりの夫婦になるよう、少女は少年に出て行けと無言で指差した。現代なら中学生辺りの子供でしかないが、当時は成人の儀式を済ませた立派な大人だ。狼が連れ出せる唯一の時であり、少女にしてもそれを期待したのだろう。それなのに少年と寝所を共にしてしまった。 「っうと……」  それがどういう意味なのかは、考えるまでもなくアスカにもわかる。狼は少年の妻となった少女に手出しが出来なくなった。血気盛んな年頃の熱情を甘く見ていたのかもしれない。さっさと連れ出せばいいものを、紳士面して遅れを取った。話の最後に、少女が狼に会えなくなったのを残念がり、〝日々慰めてくれた友〟と無邪気に言葉にしたのでもわかる。

ともだちにシェアしよう!