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雄の本能による?

「クソがっ」  何を聞かされてもアスカには面白くなかった。変態屋敷の廊下で細く柔らかな声を耳にしてからというもの、魂の記憶に触れるたびに厄介事に見舞われる。この暗闇にしてもそうだ。話の結末が友情と知った時に、して遣られたと気付いた。しかも今回は男の魂の解放を願った細く柔らかな声の二つ目の頼みとなる。 「ふざけやがって」  胸の奥深くに潜む女に向けて言った怒りの言葉も虚しく響く。無視しようにも魂の記憶に触れたあとでは、アスカ自身の記憶にわだかまりを残す。すっきりするには願いに添うより他ないのだ。 「てか……」  アルファに対する女の思いが友情であるのなら、女を連れ出せたとしても、アルファは幻惑という嘘でしか愛されないことになる。元からアルファは負けていた。男にもアルファと戦う理由がない。それなのにアルファの挑戦を受けるのは、友に勝る愛の強さを見せ付けたいといった雄の本能によるものと、アスカにもわかって来る。

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