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何が気に入った?

「……っ」  ところが男に何かしらの動きがないままに時間が過ぎた。話を振ったことの意義に、男が応えると考えたのが浅はかだった。呼吸程度の僅かな間でも、アスカには異様に長く感じられ、その場の空気も白けまくる。とはいえ、気まずさを放置してはおけない。無表情であっても、ソファを陣取る男には寛ぎという居座りの匂いが漂い流れていたからだ。 「あのクソガキは……」  男にその気がないのでは、アスカが頑張るより他ない。独り言には慣れている。そう思って、やや早口に話を継いだ。 「俺をパシリにしやがった、あんたらに落ちこぼれにされたしさ、俺が何しようが、誰も気にしねぇってとこよ、けど、パシリってのは大概がただ働きさ、んなケチ臭ぇガキが依頼主だって?クソ有り得ねぇだろ」  アスカの話の何が気に入ったのか、男の完璧な無表情がほんの少し解けた。笑いとは言えないくらいに微かなものだが、男を見詰めていたことでアスカには気付けていた。

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