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平穏を狂わす?
「っうと……」
導かれる答えは憑依しかない。誰がというのも明らかで、何があったのかも薄々わかる。
「ヴァンパイアコスのあの子、行方不明だっう少女、見付かったんだな」
男が頷くのを見て、アスカは暗く落ち込み掛けた気分を上げようと、ふざけ調子に言葉を繋ぎ、問い掛けた。
「けど、どいつもこいつもずらかるくれぇ、イッちゃってたか?」
モンスター居住区への居住許可証に『霊媒』と記されはしても、アスカに魂の浄化は出来ない。この世に彷徨う死者の声が聞こえはするが、それだけのことだ。ただし浄化も無理となった魂を、まったき闇に落とせる力を持つ。精霊達の噂では現代においてそこまで悪と化した死者はいないとなるのだが、それもヌシによると現代人の感情に旨みがないからとなる。アスカが人間相手に占いしか出来ない落ちこぼれであるのは、人間種社会にとって喜ぶべきことなのだ。そうした平穏を狂わす悪の出現を、男は頷くことで示そうとした。
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