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野暮はするまい?

 男はアスカの推測を補足するように間違いを正しながら話を継いでいた。行方不明の少女についても見付かったのではなく、アスカが変態屋敷へと連れらていたあいだに、一人で自宅に戻って来たと説明する。依頼もまた、少女の父親が男とかかわりの深い事務所の所長と個人的に親しくしていたことから、悩んだ末にしたことだという。 「かの父御、特別保護区周辺、諸事に力を有し……」  その娘がヴァンパイアコスにのめり込んだ。モンスター居住区の完全解放反対派の数少ない支援者となったのも、親の心情としては真っ当な行動ではある。それも娘の行方不明で一変する。反対派に相談した直後に、娘がのっそりとおかしな様子で戻って来たのだ。無論、父親は不審をいだき―――と、そうした話を男は滑らかに流れるように語った。 「へぇ」  アスカにすれば、えらく虫のいい話でしかない。笑い飛ばしてやりたいくらいだが、耳を楽しませる美声に、野暮はするまいと自制した。

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