616 / 812
これもまた?
「ふふっ」
男がほんの微かに声を響かせて笑った。その明るい調子に、精霊達の扱いに長ける男を称賛する思いがきちんと伝わったのを知る。互いに交わす視線にも嫌みがない。こちらの仏頂面にあちらの喜色満面といった違いを超えて、平穏でさえある。だからこそ、殆ど睨んでいる状態のアスカには男の真意が測れないでいた。
〝君が為……〟
この恩着せがましさが引っ掛かる。アルバイト風山男といちゃつけないよう先制したのかと疑いたくなるが、それはないとわかっている。『人間外種対策警備』に出向き、アスカに代わってヌシの頼みを処理しようとしたくらいだ。長らく控えていたバトルまで始めるといった熱の入れようでは、アルファが原因と見て間違いない。女の頼みは別件にするしかなくなったが、それもアスカの都合であって男には関係しない。
〝我が思いにおいて……〟
男はそう続けていたが、これもまた鼻に付く。となれば、こう返すより他ない。
「うるせっ」
ともだちにシェアしよう!