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深い意味はない?

 男は麗しく微笑むばかりで返事をしないが、馬鹿にしているようでもなかった。むしろアスカの読みに満足し、嬉しそうに目尻を下げているといった感じに見える。 「ってもよ」  読みが正しいとなると、依頼主の訪問は決定事項となる。そこがアスカには気掛かりだった。手さげかごを返しがてらアルバイト風山男を誘う―――この人生初のお楽しみを予定したからで、それを男に聞かせるのが不安でならない。適当に誤魔化すにも、相手は超絶有能なモンスターだ。真実でなければ見破られる。 「今日、じゃねぇよな?」  アスカは悟られないよう、さり気なく言葉を繋いだ。 「俺にも都合ってもんがあるしよ」  やはり男はだんまりだったが、思いについては首を横に振って示された。 「クソがっ」  人生初のお楽しみへの未練に、つい顔を顰めて叫びはしたが、アスカにすれば挨拶みたいなもので深い意味はない。男もわかっているようで、拳を握って悔しがるアスカに微笑み続けていた。

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