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甘い顔はご法度?

「ああん?」  脅し掛けるように響かせたその声音は、アスカにとって極々自然なことだ。男を怯ませようという大それた考えがある訳でもない。 「文句あんのか?」  さらに声音を低くして続きを口にしようが、単なる問い掛けとして話している。 「これの……」  仕事着の―――ロングドレスにフード付きマントの何が悪いというのか、アスカにすれば客と会うには完璧と言える装いだ。そこが理解出来ないとは、相棒として信義にもとる行為であり、仲間としても疑いたくなる。その思いを言葉にしただけで、他意はない。男が遠慮がちに声を震わせて答えた時に、やっとアスカにも気付けたくらいだ。 「不徳の極み」  謝罪に合わせて、男が見せた優美な微笑みをより美しくする清廉とした眼差しには気が引けた。アスカは悶々とし、落ち着かない。要するに気持ちの問題だ。相棒らしく互いを尊重するといった最低限の気遣いも出来ない男に、惚れた欲目の甘い顔はご法度ということだ。

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