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馬鹿にされた?

「おいっ」  男を呼ぶその声音も、硬派の名折れとならないよう強めに響かせた。子供扱いされたことで、男をやや見下ろせる位置にとどまっているのだ。そこを慰めに気分を上げれば、むかつきもさらに収まる。こうした状況への説明を求めるにしても最高という訳だ。 「あんたさ」  気付けばアスカは男と二人、別荘の裏手の森に紛れるように、ひときわ立派な巨樹の天辺にいた。だからこそアスカには疑問が湧いた。男はアスカを抱いて瞬間移動で空高く飛んだようだが、別荘のドアは誰が開けたのか、状況を理解するにも、まずはそこからという気がしてならない。モンスターカフェでは案内係が開けていたのだから、気にして然るべき疑問であるはすだ。 「君は……」  それが男にはわからないようだった。遥か下に望める別荘を眺め遣る目をアスカへと流し、微笑みながらこう続けている。 「まさしく驚嘆に値し者」  〝まさしく〟はっきりと馬鹿にされたのが、アスカにはわかった。

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