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賭けに勝って?

「うるせっ」  アスカにとっては論理的思考によるものだが、男には違うようだ。それでも〝気にするのはそこか〟と軽く返してくれたのなら、笑って済ませられたかもしれない。男のオヤジ臭い頭では理解出来ないのだろう。アスカには言いたいことがわかるだけに、むかつくばかりだ。何より前に聞かされた台詞の使い回しに腹が立つ。  前回は取り敢えずでも耐えようとした。遅々とした男の話に勢いを付ける為には、悔しがっては負けと思えたからだ。すぐに我慢し切れずに怒鳴っていたが、今回は取り敢えずという気にもならない。巨樹の天辺から地面へと真っ逆さまに落ちようがやってやる。その覚悟で暴れてもみせた。  内心の計算高さを否定はしない。男が心底惚れた女の魂を胸の奥深くに宿らせているのだ。そこに賭けて何が悪い。実際、アスカは賭けに勝っていた。地面は未だ遥か下に望めている。問題があるとすれば、僅かながらの計算違いに戸惑わされたことくらいだ。

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