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選択に余裕が?
「で……」
抱き直されたことで知った絶妙な位置には、中々どうして、今までにない新鮮さがあった。子供扱いされているような抱き方でも、そこに見せる親密さには色気もあって、アスカを楽しませる。ヤヘヱの口出しは邪魔でしかないのだ。それでも聞き入れるようにして促したのは、こちらから投げ掛けた疑問と思っての配慮でしたことだった。
〝でじゃにゃ〟
ほろ酔い調子のヤヘヱに、アスカの気遣いは届かない。愚かしい配下といった口調で続けられて行く。
〝うにゅのアホにゃ頭にゅも、ごりぇじぇばがづじゃにゃぁ〟
「な……っ!」
アホだけ〝アホ〟とはっきり聞こえたのが憎らしかった。へらへら笑うように伸ばされた語尾にも怒鳴り付けたくなる。ヤヘヱの口調が完全に意味不明であるのなら、アスカは即刻そうしていたが、漢字まじりの喋りに悩まされ、遅きに失する。
「けど……」
寛ぎの空間にいたのを思い出せた。話す相手の選択に余裕があったのにも気付けた。
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