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瞬間移動の最中に?
「ドア、開けたのってさ」
アスカはにんまりとして男に向かって話し掛けた。
「あんたってか?」
男の微笑みは頷きに似て、美しかった。飲んだくれヤヘヱと比べれば何倍もの価値があり、目の保養にもなる。瞬間移動で害した気分を償わせるにも、男を相手の会話が最善だ。ヤヘヱにかまけていては苛立つばかりで、折角の心地良い抱擁まで無駄にする。そう思ったのも束の間、またもヤヘヱに割り込まれ、漢字まじりの喋りを聞く羽目になった。
〝わじゃぐじめぎゃ、じょう申じゅじゃじょ〟
酔いに揺れるヤヘヱの煌めきに、かつての仲間達に囲まれたことで見せた緊張感はどこにもない。ほんのり赤い煌めきがおっとりと揺れて、事の次第も悠々閑々と言葉にされて行く。
〝ぎょいか、あにょ時……〟
お陰でアスカの疑問は解消された。ヤヘヱを信じるのなら、男は瞬間移動の最中にあっても、自由な方の手でドアを開け、閉め忘れもせずに巨樹の天辺へと飛び上がったことになる。
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