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それでアスカは?
「っうか……」
男にうまく乗せられた気がしないでもなかった。思い返してみると、朝早くの来訪からして疑わしい。完璧な装いでダイニングルームのソファに悠然と座っていたことも、全てが策略であり、アスカをベッドから引きずり出そうとしてのことに思えなくもない。何と言ってもアスカの別荘は精霊達の溜まり場だ。男がいるとなれば、精霊達は騒ぎ出す。ただでさえ騒がしい彼らだが、その常を超越する。男にしても〝小雀ども〟と呼んでうるさがっている。利用しないはずがない。事実、アスカは気にして起き出していた。
ベッドを離れないでいたのなら、男の思うようにはならなかったのかもしれない。それも今更のことだ。報酬の取り分としての七割に惹かれたとはいえ、仕事として受けた以上は文句を言うだけ馬鹿らしい。それでアスカは急いで食事をし、仕事着に―――ロングドレスにフード付きのマントに慌ただしく着替えて、居丈高に男の前に立ったのだった。
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