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崩さない男?

「おいっ」  アスカはポケットチーフに辿り着くのもやっとこやっとこのヤヘヱを刺激しないよう、そっと小さく声を掛けた。男の側役といった偉そうな役回りを自認し、周りにもそう認めさせているのに、この時ばかりは完全に男のペットに成り下がっている。そうとしか見えないが、それでもヤヘヱの小心さを考えれば、少しくらい元気付けてやるのが筋に思えた。アスカなりの気遣いだが、ヤヘヱの理解は得られていない。ちらりと見遣るように一瞬だけ煌めきを輝かせはしたが、ポケットチーフにへばり付き、鬱々と怯え続けている。 「マジかよ」  こういうところが逆にアスカにはこすっからく映るが、だからといって無視も出来ないでいた。 「仕方ねぇ」  ヤヘヱの為というのは癪だが、完璧な無表情を崩さない男のことも気に掛かる。二人に共通する何かを見落としたのなら、もう一度見直せばいいだけだ。アスカは改めて眼下に目を向け、その様子を意識して眺めることにした。

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