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降りて来た少女?

 最初に恰幅の良い男が運転席から降りて来た。体型に似合ったスーツが地味なせいか、人好きのする福々しい顔が際立って見える。その男が何代にもわたってヴァンパイアに変異した男を世話する事務所の所長というのは明らかだ。富貴な商家の出であるのに、気安く運転手になれるところに腰の低さを匂わせても、そこがアスカには、口堅くあるべき家の当主に求められる欺瞞にも思えたからだ。  その所長にドアを開けて促され、後部座席から細身の男が降りて来た。弱り切った雰囲気からして、依頼主となった少女の父親なのは間違いない。地域の有力者だけあって、値が張りそうなスーツをすっきりと着こなし、続いて降りようとした少女に手を貸すのを見ても、甘々な父親なのがわかる。 「あの子……が?」  しかし、アスカには判然としないところがあった。差し出された父親の手を叩き払って降りて来た少女を眺め、もやもやした気分で言葉を繋ぐ。 「……ヴァンパイアコス?」

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