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つまり男は?
迷い込んだ者達を永遠に彷徨わせる禁足地も、命あるもの―――生者には何かの拍子に解放されるといった救いがある。どういった調子に解放されるのかは精霊の胸三寸と言えそうだが、フジの恐怖心を思ってみれば想像も付く。散々玩具にされたあとに男のとりなしによって解放されると、そういった話をフジはしていた。
「けど……」
命ないもの―――死者にはそういった遊びめいた救いすらない。迷い込んだら最後、まさに闇に葬られる。時間と空間の歪みというものは、本来、真に恐ろしい場所なのだ。生者であっても、そこを履き違えてはならない。
「っても……」
精霊の精気で生きる男は別格だ。闇も男には優しい。男が建てたというだけで、ヌシが棲み家とするのを許し、人間の出入りにも寛容さを見せる。アスカも同様で、闇の領域内を好きに歩かせ、客にも手出しをしないでいる。つまり男は確かな理由のもとに、巨樹の天辺を最強の安全地帯として選んだことになる。
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