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アスカに沈黙を?
「うーん」
まずは唸って考えてみた。最強の安全地帯に身を置く理由に合点が行き、安心していいはずなのに、何故か不安を覚えてならない。ヤヘヱの異様な怯え方にも気持ちがざわつく。
「てか、あの子……」
アスカは男に声を掛けるようにして、こちらに視線を定める少女を顎先で示し、苛立たしげに続けて行く。
「あんたの話じゃ、有り得ねぇんじゃね?無情っうけど、ちっともビビッてねぇしな、平気でこっちを見てやがる」
答えはすぐに知れたが、男の喋りで理解したのではなかった。からかい半分の世話焼きは思い違いだったのだ。闇の領域についての高説も言いたいことを言ったに過ぎない。完璧な無表情に変わりないように、男はこのままアスカに沈黙を貫くつもりでいる。それならと、威張りたがりのヤヘヱに出しゃばられたのでもなかった。ヤヘヱは依然として甘えるようにポケットチーフにへばり付き、鬱々と怯えている。これでは知りたいことが聞ける訳もない。
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