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少女そのままの?
「ったくよ」
ペットは主人に似るというが、ヤヘヱと男も似たようなものだろう。肝心な時に役立たずになる。それもあって、アスカは直接この目で理解したことにむかついてならなかった。眼下では、少女が意識をなくしたように倒れ込み、父親が大慌てで抱き支えようとしている。そういった光景を視界の隅に捉えつつ、アスカは視線を徐々に上向かせ、巨樹の天辺から眺めて真っ直ぐになるその位置で静止させていた。
「おいっ」
強めに呼び掛けても、同じことだった。男は沈黙を続け、ヤヘヱは逃げるかのようにポケットチーフに煌めきごと潜り込む。要するに一人で対処しろということなのだ。
「クソがっ」
アスカには面倒でしかないのだが、それでも仕方なさげに視線の先に浮かぶそれを見遣った。最初、それは白く輝く薄靄を思わせたが、次第に固まり合って人の形を成し始める。最後には眼下の少女そのままの姿になって、聡明で清楚な令嬢らしく上品に頭を傾げていた。
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