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耳に響いた嘲笑に?
「あんたさ」
アスカは取り敢えずそれに話し掛けてみた。そして低い声音でおかしげに言葉を繋いだ。
「俺のこと、なめてんだろ?」
男に抱きかかえられているのでは威力も半減しそうだが、人間種社会で習い覚えた調子は健在だ。おかしいと笑うようでも笑っていない。そうした脅しめいた口調で、瞳に映るそれへと―――少女に憑依する死者へと思いを伝えた。
「っうか、あんたじゃねぇわ、あんたらだったな」
空中に浮かぶそれが少女一人であっても、少女に憑いている死者は一人ではなかった。一人二人と心のうちで数え、全部で五人になることがアスカには理解出来ていたのだ。一人でも負担が大きいのに、五人もとなると、少女の自我はないに等しい。アスカの前に来てもなお、未だ少女の姿でいるのを見てもわかることだ。憑依は意識の乗っ取りだが、少女は完全に取り込まれている。その考えが正しいことは、突如、アスカの耳に響いた嘲笑に証明されたとも言えていた。
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