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命と引き換えても?

〝うふっ〟  その笑いが自信に満ちていたせいもあるのだろう。令嬢らしい物言いも少女を通して喋っているからのようだが、少女というより少年というべき声音が、しかも五つの声を重なり合わせたような響きが、アスカにはうざったく思え、耳障りでしかなかった。 〝わたくしのこと、お気に召しませんか?〟  五人の魂が思いを一つにして少女の意識を取り込み、続けざまに声を響かせて来る。女になりたい訳でもないだろうに、ましてや女装趣味のお仲間でもないと思うが、そこにはかつての五人に戻るつもりはないといった頑なさも見せていた。 〝あなた様を恨んではおりません、ただ少し……〟  そう続ける声音は淑やかで敵意を感じさせないが、無邪気にはしゃいでいたヴァンパイアコスの少女を知る以上は、アスカにはこの丁寧さがかえって冷たく聞こえた。 〝悲しくあります、あなた様はいつも、わたくしが命と引き換えても欲するものを、やすやすと手に入れてしまわれる〟

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