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あの人への愛?

「けど……」  それは死者だ。憑依を利益のある取引と釈明しようが、行くべき場所へ行こうとしない魂の咎は発生する。魂を眠らせたことで白く輝いていられるとしても、すぐにも翳り出す。男との再会を画策したところで、死者としては無意味な行いでしかない。そう思えてならないアスカの脳裏に、小姓装束も華やかな五人の姿が映し出された。それぞれに特徴のある整った顔立ちの少年達が現れては消えて行く。  瞬間、ここでも過去を見せられるのかと内心身構えたが、ありがたいことに何も起こらなかった。アスカにとって魂の記憶である過去はうざったいだけだ。しかし、切り離せないのもわかっている。男が愛した女の魂を胸の奥深くに宿しているのでは、分かつことは出来ない。それでという訳でもなかったが、アスカは視線を男に向けて、その美貌をとくと眺めた。 〝あの時、キイには……〟  意識内で聞いたヌシの別の台詞が思い出される。 〝あの人への愛しかなかった〟

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