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悩みわずろうて?

「愛……か」  アスカは男に聞かれないよう、胸のうちでそっと小さく呟いた。ヌシの喋りの中にあった家臣の言葉が忘れられない。 〝女にうつつを抜かすたわけなど領主の器に非ず〟  それが元で謀叛をされ、〝うつつを抜かす〟女の為に、男は変異を選んだ。わかっていることなのに、それは未だ男に執着し、説き伏せたがっている。となると謀叛をした家臣同様に目の前のそれも、女のこの台詞に尽きると、アスカには思えた。 〝殿は麗しゅう過ぎまする〟  そこには欲望が匂い立つ。束縛と言い換えた方がいいのかもしれない。死が身近であった戦乱の世に生きていたのだ。主人への敬愛が高じ、忠義に名を借りた支配を望んだとしても不思議はない。天下を狙えたその時代、共に死する喜びというものなのか、命を預けた主人に対して肉欲にも似た熱情を滾らせたのもわかる気がする。 〝家臣の皆様とて……〟  それが証拠に、女はこうも言っていた。 〝……悩みわずろうておりまする〟

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