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喜びの一端を?

「……だな」  男の信念が守護であるのなら、戦場においても後方に立つことはなかったはずだ。先陣を切って刀を振るう男は、その美貌と相まって、殊更眩しく光り輝いていたことだろう。聖霊も虜にする麗しさだ。命運を賭した戦いとなれば、死するも本望という程に、家臣団の兵士をさぞかし興奮させたに違いない。もちろん現代は戦乱の世ではない。殴り合いで測れる程度の喜びでないのもわかっている。熱情を滾らせるといっても、いきり立ったアソコの歓喜な迸りくらいでしか想像出来ないが、気持ちとしてはそう遠くないようにアスカには思えていた。 「ふふん」  疑似戦場の肉欲の場は、〝マジ最高〟と、アスカは笑った。男の完璧な無表情に隠された感情が見て取れたのも、男を押し倒すその時を夢想し、にやついていたからだろう。怒鳴り付けたいのを必死にこらえているといった思いが感じ取れる。そうした激しさも喜びの一端を担うものだ。アスカには大歓迎だった。

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