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それにも悟れた?

 魂にも尊重されるべき自由意志がある。選択を間違えなければ輝かしい世界に導かれるが、残念なことに、それにはそこが理解出来ていなかった。男の怒鳴り付けたい思いもそこを所以とするのだろう。憑依した時点で導きの夢は絶たれているのに、アスカの判断にゆだねることで最後の機会を生じさせた。精霊を虜にしても、影響力となるとアスカのが上だ。要は男に利用されたのだが、それならそれでアスカも遠慮なしに行けるというものではあった。 「ったく」  アスカはそれへと声を張り上げた。 「何様のつもりだ」  男が何を思ったにしても、完璧な無表情が崩されることはない。しかし、アスカには笑っているのがわかった。抱きかかえられているのだ。押し殺した笑いの震えも感じられる。 「死んでるくせしやがってよ」  当然、アスカは調子付く。 「なら、とっとと失せろや!」  よし、これでそれにも悟れたはずとアスカは思った。ところが違った。逆に怒らせてしまっていた。

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