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止めねぇの?

「うん?」  アスカにすれば折角の善意をすげなくされたようなものなのだが、それからするとありがた迷惑といったことなのかもしれない。アスカに向けた眼差しは、睨み付けるかのようにひややかで、容赦がない。ついにはそれの白い輝きにも翳りが差し始める。 〝あなた様に渡しはしません〟  その台詞も冷たく突き刺さるように響く。アスカには聞き覚えのある台詞であり、ヌシにも〝渡さない〟と言われていたのを思い出した時には、翳りも明らかな黒影に姿を変えていた。こうなってはそれも仕切り直すしかないようで、すっと静かに少女のもとへと戻って行く。同時に遥か下では、少女が唐突に目を覚まし、父親の腕の中で泣きじゃくり出していた。そこには聡明で清楚な令嬢は存在しない。我がままな甘えっ子がいるだけだった。 「なぁ……」  アスカは男に声を掛けた。眼下の醜態を顎先で示すようにして言葉を繋ぐ。 「アレ、マジ、クソだけど、あんたはさ、止めねぇの?」

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