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口にはしないで?
「っうか……」
アスカは眼下で繰り広げられる笑劇のような騒ぎに眉を顰めた。突飛な親子に振り回される所長を気の毒に思いつつ、憑依の道をまっしぐらに進むと決めたそれの五人に思いを巡らせ、呆れたように続けていた。
「さっき、浮かんでたあいつら、なんなの?時代は変わってんだ、あんたに取りすがったって、今更じゃね?」
さらに思い付いたことを言葉にして行く。
「モンスター界の王に担ぎ上げようってのなら、わからなくもねぇがな、けど、あんたにはヌシっうクソ面倒な縛りがある、それによ、んな野望、クソガキにしたら、ご馳走以外の何ものでもねぇしな、てか、ウゼぇだけじゃん、んなもんに乗れるかっての、だろ?」
男はふっと笑うような調子に軽く頷き、ほんの微かに口元を歪ませてから答えていた。
「あの日……」
ヴァンパイアに変異した〝あの日〟のことだと、アスカにはわかる。それを平坦な口調で語る男に哀れみを感じても、口にはしないでいた。
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