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ただ者ではなかった?
男にそれの五人を庇う気持ちがないのはわかっている。アスカが咄嗟に口にした〝裏切り〟に反応したに過ぎないのだ。利己的な夢も五人にとっては忠義となる。そういった幾つもの欲が絡まり合って〝あの日〟は起こったと、男が他人事のように続けたことで、アスカなりに理解したとも言えていた。
〝女にうつつを抜かすたわけなど領主の器に非ず〟
全ては謀叛した家臣のこの台詞に集約されるのだろう。五人が男の身にいだいた利己的な夢も、根底では家臣が台詞に込めた激しさと何も違わない。
「けど……」
アスカも男だ。時代が燃え立たせた激情に羨ましさを感じもする。そうした気分でそれの五人を追うように眼下を眺め直した。父娘は既に車に乗り込んでいたせいか、仕方なさげに運転席のドアを開ける所長しか望めないが、福々しい顔にほんの一瞬浮かべた厳しさは一見に値した。さすが長年にわたって男の生存を隠し通した家筋だ。やはり現当主もただ者ではなかった。
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