666 / 810

無理やり納得し?

 ただし武術と策謀にたけ、諦めずに戦い続けられること―――アスカにはそういった条件が必要に思えたが、奥ゆかしくも口にしないでいた。男が苛立ちに映した感情は自信だった。とするのなら、身内の異常な偏愛に倒されたとあっては、男も耳にしたくないはずだ。 「けど……」  男は強靭な家臣団を作り上げ、領地を守り、さらには広げた。戦う目的に天下がなかったと、一概には言い切れない気もする。それでアスカは素直に聞いた。 「あんた、何の為に戦った?」 「何の……?」  そこで不意に男の声音に甘さが漂う。 「もちろん、生き延びて、平穏に暮らす為に……」  そして殆ど声にならない囁きで〝君と〟と言った。 「な……っ」  アスカは思わず聞き返しそうになったが、すぐにやめた。男の言葉は全て女の為にある。確かめるような愚を犯したくもない。男は守ると決めた者達を守り抜く。つまり平穏も領民を思ってのことだと、そう無理やり納得し、アスカは話題を変えた。

ともだちにシェアしよう!